歩行障害とは、高齢者に代表される運動障害の一つであり、日常生活にさまざまな障害をもたらします。
60歳以上の高齢者の15%以上が、なんらかの歩行障害を自覚していると言われており、要介護者の場合は、さらにその割合が高くなります。
正常な歩行動作には、脳・関節・筋肉・心臓・肺・視力など、多くの複雑な相互関連が必要であり、『一人で歩けるかどうか』は健康のバロメーターとしても考えられています。
加齢に伴う機能低下は歩行障害に直結する事が多く、歩く回数が減る事により、新たな機能低下を生み、軽度の歩行障害が結果的には重度の歩行障害・健康障害を招く悪循環に陥ります。
また、「昨日までの歩き方となんとなく違う」という急な歩行障害には、脳梗塞などの疾患が潜んでいる事があり、特に注意が必要です。
その為、介護者は『歩行動作』を軽視しない関わりが重要である事を十分に知っておきましょう。
【歩行障害と疾患の関係】
高齢者に多くみられる特徴的な歩行障害には、歩き方がおかしい、ふらつきがある、痛みがある等、原因と程度によってそれぞれ異なります。一般的には歩行速度の低下、歩幅の減少、関節可動域の減少が徐々に現れる事が多く、下肢筋力の低下等で起こる『すり足歩行』は高齢者に特に多いと知られています。
歩行障害は、医師の診察にも用いられ、痙性歩行、失調性歩行、パーキンソン様歩行など原因となる疾患によって、歩行障害の現れ方も異なります。特徴的な歩行障害を知るうえでも、介護者は変化にいち早く気付く事が重要です。まず高齢者それぞれの歩行動作を、普段からよく観察しておく必要があります。そして「なんとなくおかしい」という気付きがあった場合は、ためらわずに医療とよく連携して速やかに対応しましょう。
【歩行障害の予防と治療】
加齢に伴う歩行障害の予防には、何と言っても運動が大切です。
下半身には全身の3分の2の筋肉が集中しており、『足は第二の心臓』と言われています。この第二の心臓を動かし歩く事は、血のめぐりを良くし、健康の助けとなります。また、近年の研究により『歩行速度が速い人ほど生存率が高く、遅ければ遅いほど生存率が低い』という事が認知され始め、歩行トレーニングには速度を意識した取り組みが求められています。よって、大きな歩幅を心掛け、歩調を速くすると、結果的に歩行速度は早くなり、これだけで十分に歩行能力が改善すると言われています。しかし急激な運動は、心臓や血管に大きな負担をかけることに繋がりますので、高齢者への対応には特に注意が必要です。
また、脳梗塞やパーキンソン病などの神経疾患、整形外科的疾患によって引き起こされる歩行障害に対しては有効な治療があります。何らかの疾患により歩行障害が引き起こされている場合は、専門家の指導の下、負担のない効率的なトレーニングと、痛みへの対応、転倒対策に十分留意し取り組みましょう。